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民事訴訟法の本を読む

2018-08-09

最近,週末は民事訴訟法の本(ちなみに,法律の世界では,教科書的な本を「基本書」と呼びます。)を読んでいます。

 

藤田広美先生の書かれた「講義 民事訴訟」と「解析 民事訴訟」です。

 

弁護士の知識量は司法試験の頃がピークと揶揄されることもあるように,条文などの細かい知識は時間が経つとともにどんどん忘れていきます。

 

一方で,なんとなくこれはやっていいな,これはやっていけないな,という感覚というのは,経験を積むにつれてわかってくるものです。

ですが,私はこの「なんとなく」というのを気持ち悪く感じてしまうため,自分の今行っている挙動に根拠があるのか無いのか,ということを確認したくなってしまいます。

法律的なセンスのある弁護士であれば,感覚だけでやっていけるのでしょうが,私にはセンスが無いため,きちんと知識を更新していかなければなりません。

 

司法試験の頃に何度も読んだ本でも,実務に出てから改めて読むと気づかされることが多くあることです。

知識は経験で裏打ちされて初めて意味を持つということでしょうか。

 

面白いのは,受験生の頃には学説の対立なんてどうでも良い,裁判所の考え方だけ理解できれば良い,と思っていたものですが,実務に出て世界が広がると,むしろ学説の対立の方が興味深く読めるようになってきました。

改造車の賠償費用について

2018-02-02

最近,改造車について勉強する機会がありました。

没頭してしまい,一人で30年分くらいの裁判例を調べていろいろと気付くことがありました。

せっかくなので,雑感を書きたいと思います。

 

※ 本稿はコラムであり,弁護士個人の感想を書いたものです。

厳密に判例を分析するものではありません。

 

1 そもそも改造車とは

 改造車とはいうと,高価なパーツ(エアロ等)や,装飾(デコトラ等)をつけるというものがイメージしやすいですが,業務用に改造する(冷蔵用の設備をつけたりすること)も改造車にあたり,広い意味で使われています。

 

2 改造にかかった費用の賠償は認められるのか

改造車の改造にかかった費用を賠償一般的には認められにくいです。

 

何故かといえば,まず,改造にかかった費用を立証しにくいという点があります。

すなわち,パーツ等を購入しても,個人のお店で買うと履歴が残らない,パーツ自体の客観的な値段がわからないなど,実際に改造費としていくらかかっているかの立証が困難なことが多いです。実際に,裁判例を見ても,判決文の中で,改造費の主張はなされているけど,立証がなされていない,と判断されてしまい,改造費の請求を認めないとした裁判例が多くあります。

 

次に,改造にかかった費用を立証できても,実際に損害として認められにくいという問題があります。

その理由として,どのような改造費であったら賠償を認めるのか,統一的な判断基準が出されていないという問題があります。

(裁判例で改造費を全額認めたものは,ほとんどが10万円を下回るような少額の損害が多く,一般化して論じることは困難です。)

 

 このような状況で,下で紹介する,いわゆる「金メッキ判決」が改造車両についてのリーディングケースとされています。

 

※ 改造車の費用の争われ方は,厳密には2つに分かれます。

1つは,改造車の時価はいくらかという場面です。

原則として修理費用が事故に遭った改造車の時価額に,車検費や車両購入諸費用等を含めた金額を超える場合,経済的全損といって,修理費用全額を損害とすることはできません。

そのため,物理的に修理が可能であっても,改造車の時価額が争われることがあるのです。

 

もう1つは,改造車の修理費用自体が必要かつ相当かといえるかという場面です。高額なパーツについては,修理費用も高額になることが多いため,その修理費用全てを損害として認めてよいのか,という問題です。

 本稿では,煩雑になることを避けるため,敢えて特に両者を区別しないで論じています。

 

3 いわゆる金メッキ判決

改造車についてのリーディングケースとしては,金メッキ判決(東京高判平成2.8.27判時1387号68頁)が挙げられます。

 この事件はバンパーに金メッキを施したベンツが事故に遭い,金メッキにかかった費用(約14万円)の賠償を請求したという事件です。

 この裁判例は以下のとおり判断しております。

 

 「そもそもバンパーは、交通事故が発生した場合に、自動車本体の損傷及び塔乗者の死傷を防止もしくは軽減させることを目的としているのであり、バンパーに金メッキを施すことはその効用を増加させるものではなく、かえって、損傷した場合の修復費用を増大させ無用に損害を拡大させるものであることを考慮すると、控訴人も損害の拡大について一つの原因を与えたことは否定し得ない。したがって、過失相殺の法理により損害額を算定するに当たり控訴人の右行為を斟酌することができるというべきである。」

 

 結論として,金メッキにかかった費用のうち50%しか損害と認めません,と判断しました。

 

 判決文だけみると,なんとなくいいたいこともわかる気もしますが,ここで一つの疑問が生じます。

 

 正規品に高いバンパー(パーツ)がついている高級車の場合はどうなるのか。

 

 この結論は実務上決まっており,当然全ての賠償が認められます。

「あえて高級車に乗っていることは無用に損害を拡大させるものである」という判断がされることはありません。

 

 しかし,この判断はおかしくはないでしょうか。

 最初から高級車なら損害になるけど,改造車である場合,本来の機能を向上させるものではないから過失相殺的な処理を施すというというのは,論理的ではありません。

 また,バンパーの機能は安全性にあるとした判断にも疑問が残ります。車の「見た目」もまた重要な車の「価値」ではないでしょうか。

 

 このような疑問が残る中,最近新たな裁判例が出ました。

 しかも,この裁判例は判断基準のようなものも打ち出しており,注目されるべき裁判例だと考えられます。

 

4 名古屋地判平成27年11月4日

 

「車両に不要な改造を施していることで、その分、修理費が高額となり、損害が増加するような場合、車両所有者には損害の拡大について一定の帰責事由があると評価できるのであって、改造の内容、程度、損害額拡大の程度等を考慮し、これを加害者に負担させることが公平を欠くといえる場合には、過失相殺的な処理を施し、事故と因果関係のある損害はその一部に限られるものとすべきである。」

 

「原告車両のフロントバンパーセットについてみるところ、そもそもバンパーは交通事故が発生した場合に自動車本体の損傷及び搭乗者の死傷を防止もしくは軽減させることを目的とした部品であり、原告車両に本件フロントバンパーを用いることで、純正品のバンパーに比較してその効用が増加したとは認められない。エアロバンパーであるから、空力性能を向上させる効用がある可能性は否定できないが、純正品のエアロバンパーに比較してどの程度向上したかは明らかではなく、我が国の公道を走行するに当たりその向上がどの程度、車両の安全性を向上させているかも不明であって、結局、具体的な効用の増加は立証されていない。

 また、高級車に当初からその上質さを演出するための高級な部品がついている場合には、その部品代を含めて全体についての修理費を損害と考えるのが一般的であるとしても、それは、そのような高級車に標準的に装備されている部品であるからなのであって、純正品の取り付けられた車両ではなく、あえて改造車を購入しているという点では、一般的な高級車を購入した場合と同様に解することはできず、むしろ純正品の取り付けられた車両を購入し、改造した場合と別異に解する理由はない。」

 

 前半部分はいわゆる金メッキ判決を踏襲し,過失相殺的な処理をするとしながら,因果関係にも言及しています。

 この論理的な点については言いたいことはいろいろありますが,ここでは言及しません。

 

 後半部分は,正面から高級車の場合に言及しています。

 しかしながら,高級車なら損害になることを正面から認めつつ,改造車では同様に解することができない理由が明確に述べられておらず,やはり論理的,説得的とはいえません。

 

※ ただし,この判例は純正品のフロントバンパーセットが(被告主張で)約18万円であるところ,純正品が廃盤となっていたため,原告が新たな型から約131万円かけて生産したという事案で,結論として37万円の損害額を認めているため,結論そのものが直ちに不当である,といえるかは慎重に判断すべきだと考えられます。

 

 高級車と改造車を別に取り扱う理由として,説得的なものはいまだ示されていません。

 説得できない以上,結論もまた妥当とはいえないというのが法律家としての当然の考え方ではないでしょうか。

 金メッキ判決がかなり古い判決というものもあり,判例が変更される時期が来ていると感じています。

 

 ちなみにホイールもいろいろとグレードがあります。

 高級なホイールをつけることは改造にあたるのでしょうか。

 もっといってしまえば,高級なタイヤをつけることは改造にあたるのでしょうか。

 一般的には高級なホイールやタイヤをつけても改造にあたるとはしないでしょうが,理屈のうえではかなりグレーゾーンな気がします。

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