1 交通事故には様々な解決方法があります
⑴ 示談交渉による解決
交通事故の解決方法として,最も多く用いられるのが示談交渉です。
加害者と被害者が一定の賠償金を支払うことを合意し,紛争を終わらせるもので,9割以上が示談で解決します。
最も大きいメリットは,裁判手続きに比較して迅速な解決が可能なことです。
交通事故の治療費や慰謝料は高額となることが多いため,少しでも早く事件を解決してほしいという方は多くいらっしゃいます。
デメリットは,双方が合意に至らないと,和解できないということです。
そのため,悪い言い方をすると,足元を見られてしまい,慰謝料などが裁判を行う場合よりも減額されてしまう可能性があります。
示談交渉を当事者同士で行うことも多いでしょう。特に,保険会社が示談交渉を代行してくれる場合,弁護士を入れる必要は無いとも考える方もいるかもしれません。
しかしながら,交通事故は複雑な事件であるため,自分の力だけで適切な損害賠償を実現することは困難です。また,保険会社も法律の専門家ではないため,適正な補償を実現することは難しいでしょう。
話し合いによる解決の場合でも,「弁護士に頼むと何が変わるのか」にあるように,弁護士に依頼した場合は慰謝料の算定基準が変わることをはじめとして,様々な点で損害賠償額に影響がでます。
交通事故は弁護士に依頼することで初めて適切な賠償が実現できます。
2 裁判
話し合いでも解決ができない場合は訴訟を提起することになります。
裁判官に,第三者的な判断をしてもらうものです。
裁判のメリットとしては,裁判官が中立的な立場から判断するため,公平性が期待できます。また,判決には強制力もあります。
デメリットとしては,時間がかかることが挙げられます。これは,示談交渉のメリットの裏返しになります。
裁判となった場合,訴訟を提起してから,早くても半年,長いと何年もかかる場合もあります。
また,専門的な知識が必要であるため,本人のみで裁判を提起することは極めて困難です。特に,相手方に弁護士がついてしまったら,適切な賠償を期待することは困難でしょう。
3 裁判と話し合いによる解決,どちらが良いのか。
この問いに対する一律の答えはありません。
双方にメリットデメリットがあるからです。
しかし,気を付けなければならないことがあります。
それは,もしこちらが絶対に裁判をしないとすると,保険会社としては強い態度で交渉しても問題が無いことになり,足元を見られてしまうことも少なくありません。
もちろん,裁判には時間がかかるため,むやみに裁判をすることが良いとはいえません。
しかし,不当な交渉に対しては,いざとなったら裁判も辞さない,そのような強い態度で交渉をできる弁護士を選ぶことが,適切な賠償金額を得るために必要です。
4 ADR(裁判外紛争解決手続き)
交通事故には,ADRといって,中立的な立場の機関を利用し,裁判外で話し合いによる解決を目指す手続きがあります。
交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターが主な機関になりますが,これ以外に保険会社がADR機関を運営している場合もあります。
どのような制度かはADR機関によって異なるため,ここでは大まかな解説に留めます。
ADRのメリットとしては,当事者同士の交渉と異なり,ADR機関が中立的な立場から解決方法を提案してくれる点で,ある程度公平な判断が期待できます。
また,保険会社は裁定の結果を尊重することになっているため,一定の実効性も期待できます。
さらに,ほとんどの手続きを無料で利用できるという利点もあります。
しかし,弁護士を頼む場合に比べてデメリットもあります。
第一に,制度的に使いにくい点があるということです。
例えば,交通事故は,通院の仕方や過失割合の話など,事故直後に専門家に相談することが重要で,全段階のサポートをすることが大切ですが,通事故紛争処理センターは治療が全て終わってから,示談交渉の段階でしか利用することができません。
第二に,あくまで交渉は自分で行わなければならず,交渉の場所には自分で行かなければならないという点です(制度によっては,弁護士に依頼することもできます。)。
交渉の場は必ずしも近くにあるとは限りません。つくばにお住まいの方ですと,交通事故紛争処理センターでしたら土浦に相談場所がありますが,交通事故紛争処理センターは土浦に相談場所が無いため,新宿か大宮まで行かなければならず,大きな負担が発生してしまいます。
第三に,時間的制約があるということです。多くの手続きでは,相談は1回30分まで(ただし,数回使えることもある),交渉は1回1時間までと時間制限があります。交通事故は複雑で十分に時間をかける必要があるため,これだけでは十分ではありません。
以上の点をまとめますと,損害賠償の額の点,手続きを全部任せられる点で,弁護士に直接依頼した方がメリットは大きいといえます。特に,弁護士費用特約に入っている場合は,弁護士費用を負担しなければならない場合はほとんどないため,ADRを利用するメリットはあまりないでしょう。
一方,弁護士費用特約に入っておらず,損害賠償額も少額であるため,弁護士に依頼すると費用倒れになってしまうような場合には,ADRを利用するメリットがあるといえるでしょう。