Archive for the ‘交通事故コラム’ Category
弁護士費用特約を使うことを,保険会社から止められたり嫌がられたりした場合
以下の理由で弁護士費用を使わせないようにする保険会社の担当者がいるという話をよく聞きます。
・小さな事故だから弁護士に頼まなくてもいいのでは?
・(被害者の過失が0のとき)過失が0なら弁護士に頼む理由が無いですよ。
・(被害者の過失が0じゃないとき)双方に保険会社が入るから弁護士に頼む必要はないですよ。
・誠心誠意対応するから,弁護士には頼まないで欲しい。
しかしながら,
結論からいうと,弁護士費用特約を使うことを遠慮する必要は全くありません。
もちろんすべての場合ではないですが,弁護士費用特約への加入を勧めるときには,いつでも弁護士に頼める,便利な保険だと言って加入させていることが多いです。
また,弁護士費用特約を使うための掛け金もきちんと払っているはずです。
それなのに,いざ事故を起こし,弁護士に頼むときになって,色々言って弁護士に頼ませないようにするのは信義に反するといえます。
このような態様には怒りを覚えざるを得ません。
弁護士に頼んで得られるメリットは大きく2つ
・賠償金が上がる(弁護士に頼んだ場合,ほぼ間違いなく賠償金は上がります。)
・相手との交渉や不安感といった精神的な負担が減る(こちらの方がメリットに感じて弁護士に依頼する方が多い印象です。)
このメリットは過失があろうと,小さな事故だろうと変わりません。
そもそも,事故に代償があるという発想が被害者を軽視しているといえます。
だから当事務所に頼めとは言いません。
確かに,当事務所は怪我に強い事務所だと自負しています。
しかし,当事務所では,依頼者が一番信頼できる弁護士に頼めば良いと思っています。
他に信頼できる弁護士がいるなら,その弁護士に依頼することが最善だと思います。
弁護士特約に加入させるときには都合の良いことをいい,掛け金を支払わせ,いざ弁護士費用特約を使うタイミングで使わせないようにするのは著しく信義に反するといえるのではないでしょうか。
ジャクソンテスト・スパーリングテストが陰性だとむち打ちの症状は軽いのか?
被害者がむち打ち(頸椎捻挫)をした場合に,相手方の弁護士や保険会社から ジャクソンテストやスパーリングテスト(神経症状テスト)が陰性だから,怪我の程度は軽いはずである。 と主張される場合があります。 この主張は,「レントゲン,CT,MRIで異常が無い(画像所見が無い)とむち打ちの症状は軽いのか?」と同じで, 完全に的を外しているものですが,やはり適切に反論できない弁護士が多いのもまた事実です。 そもそも,ジャクソンテストやスパーリングテストは椎間孔を狭め,神経根症の有無を確認するためのテストです。 神経根症とは,↓の図のように,(ざっくりいうと)椎間板などが変形して,神経根という部位を圧迫している症状をいいます。 一方,むち打ちは神経,筋肉,腱といった軟部組織の損傷が中心であり,椎間板などの変形によって神経根が圧迫されるものではありません。 したがって,ジャクソンテストなどで椎間孔を狭めても,痛みが生じない=陰性なのは当然と言え, むち打ちの痛みがないということにはなりません。 ※)本稿は法律・医学的知識のない方向けに,かみ砕いたわかりやすい記載にするため,あえて100%厳密ではない表現をしている場合があります。 また,むち打ちでも画像上の異常所見がある場合や,神経根症を併発している場合もあり,その場合には別の反論が妥当します。 本稿の内容をそのまま個別の事件で主張した場合の責任は負いかねますので,必ず医学的に深い理解をしたうえでご主張いただきますようにお願いします。
レントゲン,CT,MRIで異常が無い(画像所見が無い)とむち打ちの症状は軽いのか?
被害者がむち打ち(頸椎捻挫)をした場合に,相手方の弁護士や保険会社から
レントゲン,CT,MRIで異常が見られず,怪我の程度は軽いはずである。
と主張される場合があります。
この主張は完全に的を外しているものですが,適切に反論できない弁護士が多いのもまた事実です。
そもそも,むち打ちはいまだになぜ起きるのか,メカニズムは明確にはわかっていない(医学書院「今日の整形外科治療指針 第7版」100頁,2018)ため,交通事故の中でも最も難しい事件の一類型です。
しかしながら,交通事故の中で一番件数が多いのも事実であり,多くの弁護士がふわっとした知識のまま事件を処理してしまっています。
それでは,画像上異常がないとの主張に対しては,どのように反論すればよいのでしょうか。
むち打ちは神経,筋肉,腱といった軟部組織の損傷が中心であり,レントゲン,CT,MRIに異常が見られないのはむち打ちの前提にあたります。
したがって,相手の主張はこちらの主張の前提を繰り返しているだけであり,意味の無い主張である,と反論することが可能です。
例えるなら,骨折をしている被害者に対して,「今回は骨折の中でも骨が折れているだけなので,症状は軽いはずである。」と言っているのと同じです。
ただし,裁判官がこの点を理解しているとは限らないので,訴訟上は明確に指摘をすることが必用でしょう。
※)本稿は法律・医学的知識のない方向けに,かみ砕いたわかりやすい記載にするため,あえて100%厳密ではない表現をしている場合があります。
むち打ちでも画像上の異常所見がある場合もあり,その場合には別の反論が妥当します。
本稿を個別の事件で主張した場合の責任は負いかねます。
カルテに目を通していますか?
弊所では後遺障害の申請をする場合,原則として全ての事件でカルテを取り寄せ,弁護士が必ず目を通しています。
(当然,後遺障害の申請は原則として被害者請求で行っています。)
仮にむち打ちしかない事件であっても,これは絶対に必要なことです。
なぜならば,弁護士にとって,
戦いになった際に,素晴らしい法律構成と戦術を駆使することよりも,
そもそも有利な事実を集めて,戦うまでもなく勝つことが圧倒的に大切だからです。
カルテとは,事実そのものです。
取り寄せない理由は無いと思います。
(取り寄せ費用が負担できないという例外的な場合を除いてですが,
カルテはそんなに高額ではありません。)
しかしながら,カルテを取り寄せない事務所は少なくありません。
(統計をとったわけではないですが,私の見た限り,
原則として取り寄せるという方針の事務所はあまり見ません。)
場合によっては,訴訟になった時点でもカルテを取り寄せていないと思われることもあります。
これはなぜか。
2つ理由があると思います。
1つは,忙しすぎて手が回らないのだと思います。
正直にいうと,カルテを取り寄せて中身を確認する作業はすごく時間がかかります。
もっと大きな理由は,おそらく中身を見ても理解ができないからでしょう。
カルテには複雑な専門用語や,場合によっては読めない文字が並びまし,
読めたとしてもある程度医療の知識がないと理解できないことは多くあります。
人間は理解したくないものを目にしたくない,
それは弁護士も同じです。
多くの弁護士は医療のエキスパートになりたいと思っているわけではないでしょうし。
(ちなみに私は医療のエキスパートになりたいと思っています。)
だからといって本当にカルテを取得しないで良いのでしょうか。
弊所では何かわからない記載や医学的な疑問があった場合,
複数いる顧問医に,気軽に質問をすることができます。
これは圧倒的なアドバンテージです。
現に,弊所では多くの複雑な後遺障害の認定を得ています。
お怪我でお困りの場合は,一度ご相談ください。
新型コロナ感染症への対応について
新型コロナ感染症への対応について,感染の拡大を防ぐため,弊所では以下のとおり対応させて頂きます。
ご不便をおかけしますが,ご理解のほど宜しくお願い致します。
① 弊所は何よりも「依頼時からの安心」重視しておりますので,初回相談は対面式の相談を原則とさせて頂いております。
しかしながら,対面による感染の拡大を防ぐため,通常の対面式の相談に加え,
・電話
・zoom
・microsoft team
・skype
等でも対応させて頂きます。
② 通常の対面式の相談の場合,
・原則として弁護士,職員ともにマスクを着用させて頂きます。
依頼者の方におかれましても,できる限りマスクを着用して頂くようお願い致します。
・相談の度に,椅子,机,ドアノブ等の除菌をしております。
・相談の度に,換気をしております。
・お茶をお出しするのを控えさせて頂きます。
以上,何卒ご理解ご協力のほど宜しくお願い致します。
篠木
定年後に減収があると想定される場合,減収を逸失利益において考慮すべきか
〇 問題点
定年後に減収があると想定される場合,減収を逸失利益において考慮すべきか。
(最新の日弁連交通事故相談センター本部嘱託・委員会委員合同研究会の報告より。)
〇 裁判例の傾向
① 定年制度有りの場合
全体の傾向として3分の2程度の事件で減収を考量するようである。
考慮するといっても,定年後直ちに収入が0になるという判断ではなく,定年後は賃金センサスを用いたり,再雇用制度後を考慮したうえで金額を決定している。
② 定年制度無しの場合
ほとんどの事件で67歳まで(なぜ67歳かは割愛。)同一額を基礎収入としており,減収を認めていない。
定年制度無しの場合に減収を認めていないのは,一般的な定年後の減収を認めつつも,事故後の昇給や退職金が原則として考慮されないことを踏まえてだと考えられる。
そうであれば,定年制度ありの場合にも同様の理屈は当てはまり,定年制度有りの場合も減収を認めるべきではないという結論になろう。
結局は事案毎によるのだが,定年後に収入を0にしてしまうと著しく逸失利益が低額になってしまう。定年後に収入が0になるという主張は相手方から良くされる主張であり,裁判例の傾向も踏まえた反論を用意しておく必要がある。
以下,同記事に掲載されていた,裁判所が考慮する事実について,有用であると考えられるので記載する。
① 被害者の性別,年齢,職業
② 就労可能年齢になった以降の就労及び収入の実績,経緯
③ 事故時の実収入額,当該収入額の内訳
④ 勤務先の規模,他の従業員の年齢,収入
⑤ 定年制度,再雇用制度の有無,それを利用した従業員の人数や待遇
⑥ 一般的な定年年齢
⑦ 賃セ年齢別における,各年齢毎の金額の変化
⑧ 退職金逸失利益の請求の有無,同認容額の有無
弁護士と依頼者の関係,医者と患者の関係
医療の世界では「セカンド・オピニオン」という考え方は当然になってきています。
「セカンド・オピニオン」が定着すると,医者の先生も患者さんをただ治療するだけでなく,患者さんに丁寧に治療について説明・対応するようになるなど,良い効果が多く見られます。
しかし,弁護士は敷居が高いのか,まだまだ依頼した弁護士の先生に「全てお任せする」という意識が強いように思えます。
この発想は変わらなければなりません。
弁護士に依頼をされる方は大きな不安を抱えています。
弁護士は,事件を処理するだけでなく,依頼者の不安を取り除くなど,気持ちの問題も重視しなければなりません。
当事務所の依頼者でも,他の弁護士事務所に依頼していたが,依頼を変えたいという方がよくいらっしゃいます。
事務所を変えたい理由として,今まで依頼していた弁護士の能力に問題があったとおっしゃる方はほとんどいません。弁護士事務所から連絡がこない,弁護士の対応が悪い,今事件がどうなっているのかわからないといった,弁護士と依頼者の信頼関係が築けなかったことを理由としていらっしゃる方がほとんどです。
それでは,どうやって信頼関係を築くのかといえば,もちろん,事件を迅速に処理すること,依頼者と緊密に連携をすることは大切です。
一方で,事件処理の見通しをどう伝えてよいのか,悩むことが多くあります。
相談のときには,できる限り依頼者の願いをかなえてあげたいと思います。なんでも自分に任せてくださいと言いたい気持ちはあります。
しかし,弁護士は,依頼者の言うことを肯定するだけでは仕事はできません。たとえ目の前でがっかりされても,厳しい見通しがあるときはきちんと伝えることが弁護士としての誠意です。
弁護士とは理想と現実の間で揺れ動く存在ではありますが,せめて一人一人の依頼者ときちんと向き合う弁護士でありたいと思っています。