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令和 4年10月20日 判タ1519号202頁

2026-01-14

裁判年月日       令和 4年10月20日 

裁判所名           東京高裁 

裁判区分           判決

事件番号           令4(ネ)1409号

事件名              債務不存在確認請求控訴事件

 

主文

 1  本件控訴を棄却する。

 2  控訴費用は,控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

 1  原判決を取り消す。

 2(1)控訴人の被控訴人に対する原判決別紙発言目録記載の発言を理由とする損害賠償債務が存在しないことを確認する。

    (2)控訴人の被控訴人に対する平成27年4月から平成30年4月までの間に行われた控訴人社員Aによる優越的な関係を背景とする業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動による損害賠償債務が存在しないことを確認する。

    (3)控訴人の被控訴人に対する原判決別紙発言目録記載の発言を理由とする謝罪文を交付する義務が存在しないことを確認する。

第2  事案の概要

 1  本件は,控訴人が,被控訴人が控訴人の従業員等からマタニティハラスメントやパワーハラスメント(以下「本件パワハラ等」という。)を受けたとして控訴人に対し謝罪文等を要求しているが,本件パワハラ等は存在しないとして,控訴人の被控訴人に対する安全配慮義務違反による債務不履行,使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める事案である。

 2  原審が,請求が特定されていないとして,控訴人の訴えをいずれも却下したところ,控訴人は,これを不服として控訴した。

 3  前提事実(争いがないか,後掲の証拠(特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。)

    (1)当事者等

    ア 控訴人は,建築リフォーム等を業とする株式会社である。

    イ 被控訴人は,控訴人の従業員であったが,令和4年2月27日付けで自動退職扱いとされた(甲27,28)。

    ウ A(以下「A」という。)は,被控訴人が控訴人に勤務していた当時その上司であり,平成29年10月10日から令和2年9月30日まで控訴人の取締役であったものである(甲14,25)。

    (2)被控訴人は,平成27年4月から控訴人の従業員として稼働し,同じく控訴人の従業員である女性と平成29年12月に婚約し,平成30年9月に結婚式を挙げたところ,その間の同年3月に同女性の妊娠が判明した(甲2,5)。

    (3)被控訴人は,控訴人に対し,令和元年5月19日付けの「X1を日本一の会社に飛躍させるための案」と題する書面(以下「本件申入書」という。)を提出した。

  本件申入書には被控訴人入社後の時系列に沿いつつ被控訴人が感じたことなどが書かれた部分もあったが,その中に,上記女性が妊娠したことにつき平成30年4月に幹部から詰められたといった記載や,Aからのパワーハラスメントにより鬱になった旨の記載などが含まれていた。

  (甲5)

    (4)被控訴人は,令和元年5月23日から育児休業を取得していたが,令和2年10月14日,控訴人代表者と面談し,本件申入書に記載された件や育児休業からの復帰後のことなどについて話をした。話は復帰後のことや本件申入書に記載されたことなどにわたり,被控訴人がわだかまりを抱えているのなら今日解決したいなどといった控訴人代表者の発言や,関係者に謝罪を求める趣旨の被控訴人の発言などもあったが,話はまとまらなかった。

  控訴人は,同年12月18日,八王子簡易裁判所において,被控訴人を相手方として,調停を申し立て,これを受けて被控訴人は本訴代理人弁護士を調停の代理人として依頼するなどした。

  (甲12,16,22,27,乙2)

    (5)被控訴人は,令和3年1月18日,労働組合であるBユニオン(以下「本件労組」という。)に加入した。

  本件労組は,同月27日付け書面をもって,被控訴人の復帰に当たっての控訴人の方針を明らかにすることを求めるとともに,被控訴人に対するパワハラ等について事実関係を調査し,責任者を処分し,文書で謝罪するとともに,これらの内容を全従業員に通知することなどを求め,控訴人に対し,団体交渉を要求した。

  これに対し,控訴人は,同年2月2日に上記調停申立てを取り下げ,同月3日付け訴状により,被控訴人を被告として,被控訴人に対し「ハラスメントを理由とする損害賠償債務を負担しないこと」の確認を求める本訴を提起した(なお,本訴の請求の趣旨は,原審での複数回にわたる訴えの変更の結果,現在のものとなっている。)。

  (甲6,12)

    (6)令和3年2月26日,本件労組側が被控訴人及び書記長ら,控訴人側が本訴代理人弁護士及びAらの出席の上,1回目の団体交渉が行われ,その中で,本件労組は,控訴人に対し,本件パワハラ等に関する事実関係の調査や被控訴人の復職へ向けての調整を求めるなどしたほか,控訴人が本訴を提起したことが不当であるなどと主張した

  (甲7,8,15)。

  本件労組は,同年4月1日,神奈川県労働委員会において,控訴人を被申立人として,控訴人が本件労組との間で被控訴人の復職条件に係る団体交渉に誠実に応じないこと,本訴の提起は被控訴人が本件労組の組合員であることを理由とした不利益取扱いであること等を主張して不当労働行為救済命令を申し立てた(甲12)。

  同年4月7日,2回目の団体交渉が行われ,お互いの発言等をめぐって紛糾する場面も多かったが,被控訴人の復職後の処遇や本件パワハラ等に関する件なども話題とされた(甲9,10)。

  同年5月10日,3回目の団体交渉が行われ,被控訴人の復職後の処遇や本件パワハラ等に関する件などの話がされ,後者については控訴人側から被控訴人に対し本件パワハラ等と考えている行為をすべて明らかにするよう求めるなどした(甲11)。

    (7)その後,控訴人や関係者により以下の訴訟が提起された。

    ア 損害賠償請求訴訟①

  控訴人は,令和3年5月28日付け訴状により,横浜地方裁判所において,本件労組を被告として,上記救済命令申立てが違法であるとして,損害賠償を求める訴訟を提起した(乙2)。

    イ 損害賠償請求訴訟②

  Aは,令和3年8月2日付け訴状により,横浜地方裁判所相模原支部において,被控訴人を被告として,被控訴人がAを本件パワハラ等を行った者と名指しした行為等が名誉棄損に当たる等として,損害賠償を求める訴訟を提起した(甲16)。

  なお,同支部は,令和4年6月29日,この訴訟について,Aの請求を棄却するとの判決を言い渡した(甲26)。

    ウ 損害賠償請求訴訟③

  控訴人は,令和4年6月3日付け訴状により,横浜地方裁判所において,被控訴人を被告として,被控訴人が顧客を装って控訴人の従業員らにメールを送ったと主張し,この行為が不法行為に当たる等として,損害賠償等を求める訴訟を提起した(甲27)。

    (8)被控訴人は復職予定であったが,平成3年5月24日付けの医師の診断書において神経衰弱状態で自宅静養を要するとされており,同年7月12日付けでこれを理由に同年5月27日から8月27日までの年次有給休暇を申請した(甲13,18)。そして,被控訴人は就業規則に基づく休職期間満了により令和4年2月27日付けで控訴人を自動退職するに至った(甲27,28)。

 4  争点は,①請求の不特定により本訴を却下すべきか否か,②確認の利益の欠如により本訴を却下すべきか否か,③本件パワハラ等の存否であり,これらの点に関する当事者の主張の要旨は,次のとおり補正するほかは,原判決の原判決3頁1行目から11頁25行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

  以下原判決中,「原告」,「被告」,「訴外A」とあるのを,それぞれ「控訴人」,「被控訴人」,「A」と読み替える。

    (1)原判決3頁1行目を,「(1)争点①請求の不特定により本訴を却下すべきか否か」と改める。

    (2)原判決5頁8行目を,「(2)争点②確認の利益の欠如により本訴を却下すべきか否か」と改める。

    (3)原判決5頁14行目の「以下「提案書」という」を,「本件申入書」と改め,以下,原判決中,「提案書」とあるのを,いずれも「本件申入書」と改める。

    (4)原判決11頁20行目を,「(3)争点③本件パワハラ等の存否」と改める。

    (5)原判決11頁25行目の「予備的答弁」を,

  「本案の答弁」と改める。

第3  当裁判所の判断

 1  原判決は,本訴においては各請求の趣旨の特定がいずれも不十分であるとして,各請求に係る訴えを全て却下したものであるところ,この点についてはなお検討の余地がないではない。しかしながら,この点はさておくとして,当裁判所としては,本件においては確認の訴えにおいて求められる即時確定の利益が存在するとはいえないから本訴は不適法と判断するものである。その理由は以下のとおりである。

 2  本件は消極的確認訴訟である債務不存在確認訴訟であるところ,かかる訴訟が提起される典型的な事件類型である交通事故による損害賠償請求権の存否が問題となっている事案についてみると,この種事案において提起された債務不存在確認訴訟については確認の利益が認められるのが通常であるものの,紛争が未成熟であったり,訴え提起が濫用的であったりするなど特段の事情がある場合には確認の利益が否定される余地もあると考えられるところである(このような指摘をしている裁判例として,東京高裁平成4年7月29日判決・判例タイムズ809号215頁,東京地裁平成9年7月24日判決・判例タイムズ958号241頁)。本件は,職場における本件パワハラ等をめぐる紛争について債務不存在確認訴訟が提起されている事例であるところ,この種の紛争については以下のような指摘ができる。

  職場内において,パワーハラスメントやセクシャルハラスメント等,各種ハラスメント(以下「パワハラ等」という。)が発生したとして従業員が事業主に対して相談を持ちかけたり苦情を申し入れたりしたからといって(以下,両者を併せて「相談等」という。),当該従業員が事業主に対して損害賠償を請求する目的があると当然にいえるものではない。このような場合における問題解決の在り方には多様な選択肢があり得るところであって,従業員としては事業主が事実関係の調査を踏まえつつ適切な対応措置を取ることを通してより良い職場環境が実現されることを期待しているのがむしろ通常であると理解される。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2第1項は,「事業主は,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めるが,これは上記と同様の理解に立つものといえるであろう。そして,同条3項を受けて定められた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(乙1)は,事業者に対して職場におけるパワーハラスメント防止のための措置を講ずることを求めるとともに,従業員から相談等があった場合において迅速かつ正確な事実確認やこれに引き続く措置を取るべきことなどを定めているところである。

  このような事情を考慮すると,従業員がパワハラ等について事業主に相談等をした場合には,状況のいかんにより将来的に従業員からパワハラ等を理由とする損害賠償請求がされる可能性がないわけではないけれども,その可能性は一般的抽象的なものにとどまり,むしろ両者間の協議や事業主による対応措置がされることによって債務不履行や不法行為を理由とする金銭賠償や特定的救済といった紛争にまで至らずに解決する可能性も十分に高いものと思われる。そうすると,紛争解決の在り方として損害賠償による解決が原則となる交通事故の場合などとは相当に様相が異なると解されるのであって,単に上記のような相談等がされたことをもって事業主に対する損害賠償請求権の行使につながる抽象的可能性があるとして当該従業員を相手に債務不存在確認訴訟を提起することは,損害賠償請求に係る紛争が未成熟な段階で確認を求めるものといわざるを得ない。また,かかる段階で債務不存在確認の訴えを提起することは,相談等をした従業員側の意思に必ずしもそぐわないばかりでなく,事業者の法令上の責務を果たさないまま応訴の負担を従業員に負わせることにもなりかねないところである。損害賠償請求がされる抽象的危険があれば債務不存在確認訴訟を提起できるとするならば,従業員としては損害賠償請求をしないと約束でもしない限り上記の負担にさらされることにもなるが,これは問題解決へ向けた従業員の選択肢を奪う結果となるのではないかとの疑問もあるし,その態様のいかんによっては従業員からの相談等を封殺するおそれがあることも否定できず,既に挙げた法令等の趣旨との抵触が問題となり得るというべきである。

  このような事情を勘案すると,以上のような状況の下で債務不存在確認訴訟が提起された場合において,当該確認訴訟による即時確定の利益があるといえるためには,少なくとも当該事案における事実関係に照らして従業員が事業主に対し損害賠償請求権を行使する現実的危険があるといえるだけの事情があることを要するものと解するのが相当である。

 3  これを本件についてみると,被控訴人が令和元年5月に提出した本件申入書(甲5)には,被控訴人が上司から本件パワハラ等を受けたという趣旨の記載がされているが,その中には控訴人に対して損害賠償を求めるといった記載は含まれていない。そして,被控訴人は,本件申入書を提出した直後から育児休業を取得していたが,令和2年10月になって控訴人代表者と面談しており,その際,育児休業から復帰後のことに加えて本件申入書に記載されていた本件パワハラ等の件についても話がされ,その中で,謝罪をしてほしい旨の発言が被控訴人からされてはいるが,この発言は長時間にわたる面談の一場面において出たものにすぎない。この面談では控訴人代表者による発言が多く占めているところ,むしろ控訴人代表者から「じゃあ1個1万円にしとく?1個1万円払うよ」などと金銭解決を持ちかけたかに取れる発言もあり,これに対して被控訴人が「1個1万円?いや,それは考えたことなかったので」と応じるなど(甲22),被控訴人側においては必ずしも損害賠償請求を念頭に置いていなかったこともうかがわれる。

  そして,被控訴人が加入した本件労組が令和3年1月27日付け書面(甲6)をもって控訴人に対して団体交渉を要求した際にも,そこにおける要求事項は,被控訴人の復帰に当たっての控訴人の方針を明らかにすること,被控訴人に対する本件パワハラ等について事実関係を調査し,責任者を処分し,文書で謝罪するとともに,これら内容を全従業員に通知することなどであり,本件パワハラの件について被控訴人への損害賠償を求めることは要求事項に入っていない。要求事項の中には文書での謝罪を求める部分もあるが,同事項全体から見るならば,これは債務不履行や不法行為を理由に特定的救済を求める趣旨のものというよりも,控訴人に対して前記厚生労働省告示が挙げる雇用管理上の措置の一環として謝罪を要求するという趣旨のものと理解し得るところである。控訴人と本件労組との第1回交渉の際には,本件労組側から,金銭的解決になる可能性もあるとの話が出ている部分も一部にはあるが,他方において,どういう職場を作っていくのか,その中で雇用の問題やハラスメントの問題をきちんと解決していくことを重視している趣旨の発言もされているところであって(甲7),交渉全体を見ても,被控訴人が損害賠償請求を具体的に考えているとうかがわれるだけの事情は見受けられない。他に,被控訴人が控訴人に対する損害賠償請求を具体的に考えていることをうかがわせるだけの事情は,証拠上認められない。

  以上の事情に照らすならば,本件においては,被控訴人が控訴人に対して,控訴人の従業員であった時期に受けた本件パワハラ等を理由として控訴人に対して損害賠償請求権を行使する現実的危険があるといえるだけの事情があるとはいい難い。したがって,本訴は即時確定の利益を欠くものというべきであるから,これを不適法として却下すべきである。

 4  結論

  以上の次第であるから,控訴人の訴えをいずれも却下した原判決は,結論において相当であり,本件控訴には理由がない。

  よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 小林宏司 裁判官 前田英子 裁判官 山城司)

東京地裁平成9・7・24中間判決判タ958号241頁(まとめ・コメント付き)

2026-01-14

裁判年月日       平成 9年 7月24日 

裁判所名           東京地裁 

裁判区分           中間判決

事件番号           平8(ワ)643号

事件名              債務不存在確認請求事件

 

主文

  確認の利益に係る被告の本案前の抗弁は理由がない。

 

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

 一  原告ら

  別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件交通事故」という。)に基づく原告らの被告に対する損害賠償債務は、存在しないことを確認する。

 二  被告

  本件訴えをいずれも却下する。

第二  事案の概要

  原告らは、本件交通事故に係る原告車両の運転者ないしその使用者であるが、被告車両の所有者である被告に対して、本件交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことの確認を求めた。これに対し、被告は、本件債務不存在確認の訴えは、訴えを濫用するものとして、確認の利益ないし必要性が否定される場合に当たるから、却下されるべきであると主張した。

  本件の本案前の争点は、確認の利益の有無である(本案の争点は省略する)。

第三  当裁判所の判断

 一  甲第一ないし一七号証(枝番の表示は省略する。)、乙第一ないし五号証によれば、以下の事実が認められ、これを覆す証拠はない。

    1  本件交通事故及び事故直後の示談交渉の経緯

  原告山口は、平成六年一二月七日午前一一時二〇分ころ、原告車両を運転走行中、前方を走行していた訴外兼田浩史運転、被告所有に係る被告車両(タンクローリー車)に追突した。本件交通事故により、被告車両に、修理費等の損害が発生した。本件交通事故は、原告山口の過失によるものであり、同原告は民法七〇九条により、同原告の使用者である原告会社は民法七一五条により、被告車両の所有者である被告に対し、損害賠償責任を負う(以上は争いがない)。

  本件交通事故の示談交渉は、当初、以下の経緯で実施された。

  原告側は、原告車両に係る自動車保険の保険者である日本火災海上保険株式会社(以下「日本火災海上」という。)、関連会社である日本火災損害調査株式会社(以下「日本火災損害調査」という。)にそれぞれ所属する奥村伸一及び原野英樹の二名が、被告側は、被告本人及び被告の業務に関連する株式会社トーエル所属の室越貴信及び小川桂吉の三名が、それぞれ関与して、本件交通事故に関する示談交渉を実施した。

  その結果、平成七年初めころまでに、修理費用については一九万〇五五〇円、検査費用(被告車両のタンクに損傷があるか否かを点検するため、X線を用いて行う検査の費用)については三八万八八二五円で合意した(これらは、既に支払い済みである)。

  しかし、休車損害(右検査及び修理に要する期間、被告は、被告車両に係る営業活動を中断せざるを得なかったが、これにより発生する損害)に関しては、損害額につき合意を得ることができなかった。

    2  休車損害についての示談の経緯

  被告は、平成七年一月一二日、室越貴信を通じて、日本火災海上の担当者に対して、休車損害に係る損害額を以下のように算定すべきであるとしてファクシミリ送信した。すなわち、被告は、①被告車両が、営業用のLPガスタンクローリー車であり、川崎市川崎区浮島町等から厚木市所在の工場への搬送に繰り返し用いていたこと、②事故当日及び修理日については各二往復が、検査日(六日間)については三往復分が、それぞれ予定されたこと、③一往復に係る運送賃は平均三万四二〇〇円であることに照らして、④休車損害は、合計七五万二四〇〇円であると主張した。

  これに対し、日本火災海上の担当者らは、一日当たり一往復分に限って認める旨の回答をし、更に、同年三月一三日、小川に対し、電話で、右方式によって算定した金額を基準として、三〇万円を提示した。しかし、結局、両者間で合意を得ることはできなかった。

  日本火災海上及び日本火災損害調査の担当者らは、加害車両に係る自動車保険契約がPAP契約であることから、担当者自らが、示談交渉を継続することは適当でないとした。そして、右同日、原告訴訟代理人弁護士らが、原告らの委任を受けて、示談交渉等を実施することにし、その旨を被告に通知した。

    3  訴訟代理人が委任を受けてから本件訴訟を提起するまでの経緯

  同年四月四日、被告は、前記小川を通じて、原告訴訟代理人に対して、被告車両の一年間の売上高に関する詳細な資料(甲第五ないし八号証)を送付して、休車損害については、前記金額が正当である旨を伝えた。これに対し、原告訴訟代理人は、同年七月一九日、被告から送付された資料を精査しても、本件交通事故と被告提示の損害との間には相当因果関係が認められないとして、日本火災海上が従来から提示していた三〇万円で解決したい旨回答し、更に、同年八月四日、書面により、三〇万円で示談したい旨の回答をした(甲九号証)。

  同年八月一八日、被告は、小川を通じて、原告訴訟代理人から提示された三〇万円の算定根拠を明らかにするよう求めた他、被告の事務所まで来訪して説明するよう求めて、原告訴訟代理人に対し、書面を送った(甲一〇号証の一)。なお、右書面によれば、被告が休業損害として支払を求めた金額は、一一〇万二〇〇〇円であった。これに対し、原告訴訟代理人は、同月二一日、小川に対し、三〇万円で解決したい旨の書面を送付した(甲一一号証)。

  同年一一月二一日、原告訴訟代理人は、被告に対し、直接、話合いをしたい旨の書面を送付した。被告は、同年一二月一二日、原告訴訟代理人に、面談の申込みに応じたいとの書面を送付した他、原告訴訟代理人に直接電話をし、面談のための日程等の調整をしようとしたが、原告訴訟代理人が不在であったなどの理由から、実際には、直接の面談ないし交渉を実施することはできなかった。

  原告訴訟代理人は、平成八年一月八日、被告に対し、従前の提案を変更する意思のないことを回答した上、同月一七日、被告を相手として、本件訴訟を提起した。

 二  以上認定した事実を基礎として、本件債務不存在確認の訴えについて、確認の利益があるといえるか否かについて、判断する。

 交通事故による損害賠償に関して、その責任の有無及び損害額の多寡につき、当事者間に争いがある場合、そのような不安定な法律関係が長く存続することは加害者にとっても望ましいものとはいえないので、その不安定な状態を解消させるために、加害者側が原告となり、被害者側を相手として、債務不存在確認訴訟を提起することは、許されるというべきである。しかし、損害賠償債務に係る不存在確認訴訟は、被害者側が、種々の事情により、訴訟提起が必ずしも適切でない、或いは時期尚早であると判断しているような場合、そのような被害者側の意思にかかわらず、加害者側が、一方的に訴えを提起して、紛争の終局的解決を図るものであることから、被害者側は、応訴の負担などの点で過大な不利益が生じる場合も考えられる。

 このような観点に照らすならば、交通事故の加害者側から提起する債務不存在確認訴訟は、責任の有無及び損害額の多寡につき、当事者間に争いがある場合には、特段の事情のない限り、許されるものというべきであるが、他方、事故による被害が流動的ないし未確定の状態にあり、当事者のいずれにとっても、損害の全容が把握できない時期に、訴えが提起されたような場合、訴訟外の交渉において、加害者側に著しく不誠実な態度が認められ、そのような交渉態度によって訴訟外の解決が図られなかった場合、或いは、専ら被害者を困惑させる動機により訴えが提起された場合などで、訴えの提起が権利の濫用にわたると解されるときには、加害者側から提起された債務不存在確認訴訟は、確認の利益がないものとして不適法となるというべきである。

 そこで、本件について検討すると、本件交通事故が発生した平成六年一二月から、本件訴えが提起された平成八年一月まで、一年以上が経過していること、その間、当事者間で、休車損害の額に関する交渉が、頻繁に行われたこと、それにもかかわらず、双方の主張には、なお、隔たりが存在したこと等の事情に照らすならば、本件交通事故による休車損害の額について、訴訟によって究極的な解決を図るため、原告らが被告を相手として、債務不存在確認訴訟を提起する必要性があったものということができ、また、訴えの提起が、権利濫用に当たるということはできない。

 確かに、被告側は、早期に、その主張する損害額の根拠となる詳細な資料を送付したのに対し、原告側は、その主張する損害額の算定根拠を必ずしも明らかにしなかったこと、示談交渉の場所の選定などについても意見の対立があったこと等の事情に照らすならば、被告が、本件示談交渉に当たって、原告側の対応に、少なからず不満を持っていたことは推測されるところである。しかし、右の事情が存在したからといって、原告が被告に対して本件訴訟を提起したことが、権利の濫用に当たり、確認の利益を有しないものと解することはできない。

第四  結論

  以上のとおり、被告主張に係る本案前の抗弁は理由がない。よって、主文のとおり中間判決する。

  (裁判長裁判官飯村敏明 裁判官河田泰常 裁判官中村心)

 

【まとめ】

①事故による被害が流動的ないし未確定で,損害の全容が把握できないとき

訴外の交渉で著しく不誠実な態度があり,訴訟外の解決が図られなかった場合

もっぱら被害者を困惑させる動機により訴えが提起された場合

などの事情を考慮し,訴えの提起が権利の濫用に亘ると解されるときに確認の利益が無いとした。

⇒ 最終的なゴールは「訴えの提起が権利の濫用に亘るとき」である

 

【事案の概要・裁判の結果について】

結果的には確認の利益ありと判断されている。

しかし,事案をみると,「当事者間で、休車損害の額に関する交渉が、頻繁に行われたこと、それにもかかわらず、双方の主張には、なお隔たりが存在した」との認定されており,やはりもともと訴えの利益を認めるべき事案であったといえる。

東京高判平成4・7・29判時1433号56頁(まとめ・コメント付き)

2026-01-14

裁判年月日       平成 4年 7月29日 

裁判所名           東京高裁 

裁判区分           判決

事件番号           平4(ネ)1316号

事件名              債務不存在確認請求控訴事件

 

主文

  原判決を取り消す。

  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

 

事実

 一  控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

  控訴人らの主張は、原判決「事実及び理由」の一の記載のとおりであるから、これをここに引用する。

 二  被控訴人は適式の呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

 

理由

   本件は、控訴人らにおいて、平成三年九月十六日控訴人図師忠行が自己の運転する自動車で道路を走行中、歩行者横断禁止場所で横断歩道外を横断していた被控訴人に自動車を接触させた事故につき、同控訴人が民法七〇九条により、控訴人大和自動車株式会社が自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ被控訴人に対し損害賠償責任を負うことを前提として、控訴人らの計算に基づく損害額によれば過失相殺及び弁済により控訴人らの損害賠償債務は消滅したとして、被控訴人に対し本件事故による損害賠償債務が存在しないことの確認を求めるものである。

  そして、控訴人らの主張によれば、控訴人らは被控訴人との間で円満解決を目指して交渉をしてきたが、被控訴人は控訴人らに対し本件事故による被控訴人の損害賠償請求債権が多額にある等と主張して全く応じようとしないというのである。

 事実がこのとおりであるとすれば、控訴人らと被控訴人との間には、本件交通事故による損害賠償債務の存否をめぐって争いがあることになり、本件債務不存在確認の訴えにつき原則として確認の利益を肯定すべきである。

 仮に右確認の利益の有無につき争いがあるのであれば、裁判所としては、当事者に対し主張立証の機会を与え審理を尽くしたうえでこの点につき判断すべきである。なお、確認の利益の有無は口頭弁論終結時の状態において判定すべきものであることもちろんである。

  しかるに原審は、被告(被控訴人)欠席の第一回口頭弁論期日において弁論を終結し、確認の利益に該当する具体的事情につき原告ら(控訴人ら)が主張、立証をしないとの理由で本件訴えを却下した。

  原審の右判断は是認することができない。以下、原審が理由として示す点について検討しつつ、若干付言することとする。

  交通事故による損害の賠償責任につき、被害者と加害者(運行供用者を含む。以下同じ。)との間で、責任の有無、損害額、被害者の過失の有無、程度等をめぐる争いがあって、訴訟以外の場面での解決の見込みがない場合には、被害者の側から損害賠償請求の訴えを提起して訴訟による解決を求めるのが普通であるが、被害者の側が何らかの事情により訴訟を提起しないため争いが未解決のまま残されるときは、法律関係が不安定のまま存続することになるから、このような場合には、法律上の地位の不安定があるものとして、その不安定を除去するため、加害者の側から損害賠償債務不存在の確認を求めて訴えを提起することが許されてしかるべきであり、これを不可とする理由はない。この場合の審理は、通常の交通事故による損害賠償請求訴訟と比べると、対立構造が逆になり、被害者である被告の側に、責任及び損害につき主張、立証させることになるが、審理の範囲、内容は異なるところがなく、この訴訟における審理を通じて当該交通事故による損害につき、加害者の責任の有無、損害額、被害者の過失の有無、程度等が確定され、確認を求められている債務の存否をめぐる法律上の地位の不安定が既判力をもって除去されることになる。

 ところで、損害額の認定につき裁判所に裁量的な判断の余地があることは、この種の訴訟が被害者の側から積極的に提起された場合と加害者の側から消極的確認訴訟として提起された場合とで異なるところはなく、また、対立する当事者の間で損害額についての主張が異なるのは、必ずしも損害額の認定につき裁判所の裁量の余地があることと直接結び付くものではない。原審は、損害額についての裁判所の裁量、ひいて当事者間の主張の相違があること等を理由として、損害賠償債務不存在確認訴訟の確認の利益につき、損害額に争いがあるだけでは足りず、損害額についての主張の違いを解消すべく当事者が誠意をもって協議を尽くしたがなお示談が成立しない事情、あるいは、加害者の誠意をもって協議に応ずることのできない被害者側の事情等を主張立証しない限り、確認の利益を肯定することはできないとするのであるが、このような立場は根拠のあるものとは考えられず、これを支持することができない。

  もっとも、交通事故による損害賠償債務の不存在確認の訴えが、その必要性につき問題があって確認の利益がないとされる場合があり得ることは否定できない。例えば被害者の症状が未だ固定していない場合には、損害が更に拡大する余地があるから、被害者の側でもその間は訴訟の提起を差し控える理由ないし利益があり、一方、加害者の側から債務不存在確認の訴えを提起しても、これにより紛争が一挙に解決するとはいえず、このような観点から、その必要性ないし利益が問題とされることはあり得ると考えられる。また、被害者からは何らの請求さえされていない場合、あるいは当事者間で誠意ある解決を目指して協議、折衝が続けられていて、その続行、解決を妨げる何らの事由もない場合等に、加害者の側から一方的に債務不存在確認の訴えを提起したときは、このような訴えに応訴せざるを得ない(多くの場合はその準備がない)被害者の不利益にかんがみ、先制攻撃的に訴えを濫用するものとして確認の必要性ないし利益を否定する立場もあり得るところである。

 しかし、右の前者の場合であっても、症状が固定していないとの被害者の言い分が果してそのとおりであるか加害者の側で正確に把握することができないため、訴訟外での折衝の成り行きに任せたままでは、加害者の側として本来正当とされる解決の範囲を超えて不当に多額の損害の賠償を強いられるおそれがあるということもあり得ないではなく、このような場合には、被害者の側で訴訟を提起しないのであれば、加害者の側に訴訟の場で損害を確定することについて必要性ないし利益があるというべきであり、加害者から債務不存在確認の訴えを提起したときに、これにつき確認の利益を否定することは困難である。また、右の後者の場合にあっても、加害者の側から債務不存在確認の訴えを提起するについては何らかの理由があるのが普通であるから、先制攻撃的な濫訴として確認の利益を否定(あるいは請求を棄却)すべきものかどうか直ちには決し得ない場合が多いと考えられる。

  本件については、確認の利益を否定すべき事情のあることが控訴人らの主張自体から明らかであるということはできず、かえって前記のように、控訴人らは被控訴人との間で円満解決を目指して交渉をしてきたが、被控訴人は控訴人らに対し本件事故による損害賠償請求債権が多額にある等と主張して全く応じようとしないというのである。したがって、審理の結果、右のような事情が認められ、一方、確認の利益を否定するような事実関係(被控訴人からの指摘があって審理の対象とされることとなろう。)の存することが認められない限り、本件につき確認の利益を肯定するのが相当である。

 ところで、被控訴人は原審の第一回口頭弁論期日に出頭しなかったのであるが、当事者が口頭弁論期日に欠席する理由はいろいろ考えられるから、被控訴人が期日に出頭しなかったことから、直ちに、確認の利益の基礎をなす紛争が存在しないものと即断するのは相当ではない。かえって民事訴訟法一四〇条により、被控訴人は、当事者間に損害についての争いがあることをも含め、控訴人らの主張事実を明らかに争わないものとしてこれを自白したものとみなす余地があったといわなければならない。

  なお、控訴人らは原審において平成四年二月二一日付の準備書面(同年二月四日受付)を提出し、本件訴訟提起に至る経過を詳細に主張しており、これによれば控訴人らの側から債務不存在確認訴訟を提起しなければならない必要性は十分に主張されているとみられる。しかし、右準備書面の副本は原審の第一回口頭弁論期日である平成四年二月二一日までに被控訴人に送達されておらず、同期日においては、控訴人ら訴訟代理人が右準備書面については陳述は不要であると述べて、これを陳述しないまま弁論終結となったことが記録上明らかである。また、控訴人らは原裁判所に甲第一ないし第六号証の正、副本を提出し、その副本は訴状とともに被控訴人に送達されていたが、原審は第一回口頭弁論期日においてこれにつき証拠の申出をさせず取調べをしないまま終結したことが記録上明らかである。

 ところが、原審は、控訴人らが確認の利益に該当する具体的事情に関する主張立証を行わないということを理由に、確認の利益を否定し本件訴えを却下している。原審のこのような措置は、問題のあるものといわなければならない。

 すなわち、仮に控訴人ら訴訟代理人が自ら進んで、右準備書面を陳述する必要はないと述べたとしても、原審が、確認の利益につき自白を擬制するのが相当でないと考え、しかも確認の利益の有無によって本件訴訟の帰趨を決するとの審理方針であったのであれば、原審としては、この点を明示的に釈明するか、少なくとも問題の在りかを示唆した上、続行期日を指定し、その間に右準備書面の副本を被控訴人に送達しておき、続行期日にこれを陳述させ、提出された書証の取調べを行い、更に必要に応じて立証を補充させる等の配慮をするのが相当であった。原審が右のような釈明ない示唆をすれば、控訴人ら訴訟代理人が右準備書面の陳述は不要であると述べるなどということはおよそあり得なかったことと考えられるのである。

  以上のとおりであって、原審が本件につき確認の利益に該当する具体的な事情の主張立証がないとして訴えを却下したのは違法であり、原判決は取消しを免れない。

  よって、原判決を取り消し、更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 新村正人 裁判官 齋藤隆)

 

【まとめ】
本件は
被害者の症状が未だ固定していない場合などは紛争が一挙に解決するとはいえず,訴えの必要性ないし利益が問題とされることはあり得る
被害者からは何らの請求さえされていない場合、加害者の側から一方的に債務不存在確認の訴えを提起したときは、このような訴えに応訴せざるを得ない被害者の不利益にかんがみ,訴えを濫用するものとして確認の必要性ないし利益を否定する立場もあり得る
と判示している。
①は訴訟資料が揃っていない場合や攻撃防御上の不利益が生じる場合のことだと考えられる
②では,攻撃防御上の不利益が生じなくても,応訴の負担自体を被害者の不利益としていることは注意したい。

 

【事案の概要・裁判の結果について】
裁判の結果は,第一審が訴えの利益無しで却下した判決を取り消した,というものである。
その理由は第一審が確認の利益の審理を十分に尽くしていないというものであった。
事案としては,被害者の治療期間が約1か月半(うち実通院日数7日)であり,過失相殺後の原告の主張する損害額が5万円,既払い額が26万円,被告がなお多額の債権があると主張し,和解に応じないという事案である。
また判決文においても「控訴人らは被控訴人との間で円満解決を目指して交渉をしてきた」との認定されており,そもそも確認の利益が認められるべき事案であったといえる。

弁護士費用特約を使うことを,保険会社から止められたり嫌がられたりした場合

2021-10-06

以下の理由で弁護士費用を使わせないようにする保険会社の担当者がいるという話をよく聞きます。

 

・小さな事故だから弁護士に頼まなくてもいいのでは?

・(被害者の過失が0のとき)過失が0なら弁護士に頼む理由が無いですよ。

・(被害者の過失が0じゃないとき)双方に保険会社が入るから弁護士に頼む必要はないですよ。

・誠心誠意対応するから,弁護士には頼まないで欲しい。

 

しかしながら,

 

結論からいうと,弁護士費用特約を使うことを遠慮する必要は全くありません。

 

もちろんすべての場合ではないですが,弁護士費用特約への加入を勧めるときには,いつでも弁護士に頼める,便利な保険だと言って加入させていることが多いです。

また,弁護士費用特約を使うための掛け金もきちんと払っているはずです。

それなのに,いざ事故を起こし,弁護士に頼むときになって,色々言って弁護士に頼ませないようにするのは信義に反するといえます。

このような態様には怒りを覚えざるを得ません。

 

 

弁護士に頼んで得られるメリットは大きく2つ

・賠償金が上がる(弁護士に頼んだ場合,ほぼ間違いなく賠償金は上がります。)

・相手との交渉や不安感といった精神的な負担が減る(こちらの方がメリットに感じて弁護士に依頼する方が多い印象です。)

 

このメリットは過失があろうと,小さな事故だろうと変わりません。

そもそも,事故に代償があるという発想が被害者を軽視しているといえます。

 

だから当事務所に頼めとは言いません。

確かに,当事務所は怪我に強い事務所だと自負しています。

しかし,当事務所では,依頼者が一番信頼できる弁護士に頼めば良いと思っています。

他に信頼できる弁護士がいるなら,その弁護士に依頼することが最善だと思います。

 

弁護士特約に加入させるときには都合の良いことをいい,掛け金を支払わせ,いざ弁護士費用特約を使うタイミングで使わせないようにするのは著しく信義に反するといえるのではないでしょうか。

ジャクソンテスト・スパーリングテストが陰性だとむち打ちの症状は軽いのか?

2021-07-12
被害者がむち打ち(頸椎捻挫)をした場合に,相手方の弁護士や保険会社から

ジャクソンテストやスパーリングテスト(神経症状テスト)が陰性だから,怪我の程度は軽いはずである。

と主張される場合があります。


この主張は,「レントゲン,CT,MRIで異常が無い(画像所見が無い)とむち打ちの症状は軽いのか?」と同じで,
完全に的を外しているものですが,やはり適切に反論できない弁護士が多いのもまた事実です。


そもそも,ジャクソンテストやスパーリングテストは椎間孔を狭め,神経根症の有無を確認するためのテストです。
神経根症とは,↓の図のように,(ざっくりいうと)椎間板などが変形して,神経根という部位を圧迫している症状をいいます

一方,むち打ちは神経,筋肉,腱といった軟部組織の損傷が中心であり,椎間板などの変形によって神経根が圧迫されるものではありません。
したがって,ジャクソンテストなどで椎間孔を狭めても,痛みが生じない=陰性なのは当然と言え,
むち打ちの痛みがないということにはなりません。


※)本稿は法律・医学的知識のない方向けに,かみ砕いたわかりやすい記載にするため,あえて100%厳密ではない表現をしている場合があります。
また,むち打ちでも画像上の異常所見がある場合や,神経根症を併発している場合もあり,その場合には別の反論が妥当します。
本稿の内容をそのまま個別の事件で主張した場合の責任は負いかねますので,必ず医学的に深い理解をしたうえでご主張いただきますようにお願いします。

レントゲン,CT,MRIで異常が無い(画像所見が無い)とむち打ちの症状は軽いのか?

2021-07-06

被害者がむち打ち(頸椎捻挫)をした場合に,相手方の弁護士や保険会社から

レントゲン,CT,MRIで異常が見られず,怪我の程度は軽いはずである。

と主張される場合があります。

この主張は完全に的を外しているものですが,適切に反論できない弁護士が多いのもまた事実です。

そもそも,むち打ちはいまだになぜ起きるのか,メカニズムは明確にはわかっていない(医学書院「今日の整形外科治療指針 第7版」100頁,2018)ため,交通事故の中でも最も難しい事件の一類型です。
しかしながら,交通事故の中で一番件数が多いのも事実であり,多くの弁護士がふわっとした知識のまま事件を処理してしまっています。

それでは,画像上異常がないとの主張に対しては,どのように反論すればよいのでしょうか。

むち打ちは神経,筋肉,腱といった軟部組織の損傷が中心であり,レントゲン,CT,MRIに異常が見られないのはむち打ちの前提にあたります。

したがって,相手の主張はこちらの主張の前提を繰り返しているだけであり,意味の無い主張である,と反論することが可能です。

例えるなら,骨折をしている被害者に対して,「今回は骨折の中でも骨が折れているだけなので,症状は軽いはずである。」と言っているのと同じです。

 

ただし,裁判官がこの点を理解しているとは限らないので,訴訟上は明確に指摘をすることが必用でしょう。

※)本稿は法律・医学的知識のない方向けに,かみ砕いたわかりやすい記載にするため,あえて100%厳密ではない表現をしている場合があります。
むち打ちでも画像上の異常所見がある場合もあり,その場合には別の反論が妥当します。
本稿を個別の事件で主張した場合の責任は負いかねます。

カルテに目を通していますか?

2020-04-14

弊所では後遺障害の申請をする場合,原則として全ての事件でカルテを取り寄せ,弁護士が必ず目を通しています。
(当然,後遺障害の申請は原則として被害者請求で行っています。)

仮にむち打ちしかない事件であっても,これは絶対に必要なことです。
なぜならば,弁護士にとって,
戦いになった際に,素晴らしい法律構成と戦術を駆使することよりも,
そもそも有利な事実を集めて,戦うまでもなく勝つことが圧倒的に大切だからです。

カルテとは,事実そのものです。
取り寄せない理由は無いと思います。

(取り寄せ費用が負担できないという例外的な場合を除いてですが,
カルテはそんなに高額ではありません。)

しかしながら,カルテを取り寄せない事務所は少なくありません。
(統計をとったわけではないですが,私の見た限り,
原則として取り寄せるという方針の事務所はあまり見ません。)
場合によっては,訴訟になった時点でもカルテを取り寄せていないと思われることもあります。

これはなぜか。

2つ理由があると思います。
1つは,忙しすぎて手が回らないのだと思います。
正直にいうと,カルテを取り寄せて中身を確認する作業はすごく時間がかかります。

もっと大きな理由は,おそらく中身を見ても理解ができないからでしょう。
カルテには複雑な専門用語や,場合によっては読めない文字が並びまし,
読めたとしてもある程度医療の知識がないと理解できないことは多くあります。

人間は理解したくないものを目にしたくない,
それは弁護士も同じです。
多くの弁護士は医療のエキスパートになりたいと思っているわけではないでしょうし。
(ちなみに私は医療のエキスパートになりたいと思っています。)

だからといって本当にカルテを取得しないで良いのでしょうか。

弊所では何かわからない記載や医学的な疑問があった場合,
複数いる顧問医に,気軽に質問をすることができます。

これは圧倒的なアドバンテージです。

現に,弊所では多くの複雑な後遺障害の認定を得ています。
お怪我でお困りの場合は,一度ご相談ください。

新型コロナ感染症への対応について

2020-04-06

新型コロナ感染症への対応について,感染の拡大を防ぐため,弊所では以下のとおり対応させて頂きます。

ご不便をおかけしますが,ご理解のほど宜しくお願い致します。

 

① 弊所は何よりも「依頼時からの安心」重視しておりますので,初回相談は対面式の相談を原則とさせて頂いております。

しかしながら,対面による感染の拡大を防ぐため,通常の対面式の相談に加え,

・電話

・zoom

・microsoft team

・skype

等でも対応させて頂きます。

 

② 通常の対面式の相談の場合,

・原則として弁護士,職員ともにマスクを着用させて頂きます。

依頼者の方におかれましても,できる限りマスクを着用して頂くようお願い致します。

・相談の度に,椅子,机,ドアノブ等の除菌をしております。

・相談の度に,換気をしております。

・お茶をお出しするのを控えさせて頂きます。

 

以上,何卒ご理解ご協力のほど宜しくお願い致します。

 

篠木

 

 

定年後に減収があると想定される場合,減収を逸失利益において考慮すべきか

2019-10-16

〇 問題点
定年後に減収があると想定される場合,減収を逸失利益において考慮すべきか。
(最新の日弁連交通事故相談センター本部嘱託・委員会委員合同研究会の報告より。)

〇 裁判例の傾向

① 定年制度有りの場合
全体の傾向として3分の2程度の事件で減収を考量するようである。
考慮するといっても,定年後直ちに収入が0になるという判断ではなく,定年後は賃金センサスを用いたり,再雇用制度後を考慮したうえで金額を決定している。

② 定年制度無しの場合
ほとんどの事件で67歳まで(なぜ67歳かは割愛。)同一額を基礎収入としており,減収を認めていない。

定年制度無しの場合に減収を認めていないのは,一般的な定年後の減収を認めつつも,事故後の昇給や退職金が原則として考慮されないことを踏まえてだと考えられる。
そうであれば,定年制度ありの場合にも同様の理屈は当てはまり,定年制度有りの場合も減収を認めるべきではないという結論になろう。

結局は事案毎によるのだが,定年後に収入を0にしてしまうと著しく逸失利益が低額になってしまう。定年後に収入が0になるという主張は相手方から良くされる主張であり,裁判例の傾向も踏まえた反論を用意しておく必要がある。
 
以下,同記事に掲載されていた,裁判所が考慮する事実について,有用であると考えられるので記載する。
① 被害者の性別,年齢,職業
② 就労可能年齢になった以降の就労及び収入の実績,経緯
③ 事故時の実収入額,当該収入額の内訳
④ 勤務先の規模,他の従業員の年齢,収入
⑤ 定年制度,再雇用制度の有無,それを利用した従業員の人数や待遇
⑥ 一般的な定年年齢
⑦ 賃セ年齢別における,各年齢毎の金額の変化
⑧ 退職金逸失利益の請求の有無,同認容額の有無

弁護士と依頼者の関係,医者と患者の関係

2017-12-17

医療の世界では「セカンド・オピニオン」という考え方は当然になってきています。

「セカンド・オピニオン」が定着すると,医者の先生も患者さんをただ治療するだけでなく,患者さんに丁寧に治療について説明・対応するようになるなど,良い効果が多く見られます。

 

しかし,弁護士は敷居が高いのか,まだまだ依頼した弁護士の先生に「全てお任せする」という意識が強いように思えます。

この発想は変わらなければなりません。

弁護士に依頼をされる方は大きな不安を抱えています。

弁護士は,事件を処理するだけでなく,依頼者の不安を取り除くなど,気持ちの問題も重視しなければなりません。

 

当事務所の依頼者でも,他の弁護士事務所に依頼していたが,依頼を変えたいという方がよくいらっしゃいます。

事務所を変えたい理由として,今まで依頼していた弁護士の能力に問題があったとおっしゃる方はほとんどいません。弁護士事務所から連絡がこない,弁護士の対応が悪い,今事件がどうなっているのかわからないといった,弁護士と依頼者の信頼関係が築けなかったことを理由としていらっしゃる方がほとんどです。

 

それでは,どうやって信頼関係を築くのかといえば,もちろん,事件を迅速に処理すること,依頼者と緊密に連携をすることは大切です。

一方で,事件処理の見通しをどう伝えてよいのか,悩むことが多くあります。

相談のときには,できる限り依頼者の願いをかなえてあげたいと思います。なんでも自分に任せてくださいと言いたい気持ちはあります。

しかし,弁護士は,依頼者の言うことを肯定するだけでは仕事はできません。たとえ目の前でがっかりされても,厳しい見通しがあるときはきちんと伝えることが弁護士としての誠意です。

弁護士とは理想と現実の間で揺れ動く存在ではありますが,せめて一人一人の依頼者ときちんと向き合う弁護士でありたいと思っています。

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